Monologue | Mariko Sugano | 菅野まり子 | marikosugano.com

28
Feb 2012
Posted in Blog, Monologue by arbor inversa at 11:55 pm | No Comments »

『スーフィーの物語』(イドリース・シャー著/美沢真之助訳 平河出版社)より

水が変わった時 >>english

 

昔々、モーセの師のハディル*が、人間に警告を発した。やがて時がくると、特別に貯蔵された水以外はすべて干上がってしまい、その後は水の性質が変わって、人々を狂わせてしまうであろう、と。ひとりの男だけがこの警告に耳を傾けた。その男は水を集め、安全な場所に貯蔵し、水の性質が変わる日に備えた。

やがて、ハディルの予言していたその日がやってきた。小川は流れを止め、井戸は干上がり、警告を聞いていた男はその光景を目にすると、隠れ家に行って貯蔵していた水を飲んだ。そして、ふたたび滝が流れはじめたのを見て、男は街に戻っていったのだった。

人々は以前とまったく違ったやり方で話したり、考えたりしていた。しかも彼らは、ハディルの警告や、水が干上がったことを、まったく覚えていなかったのである。男は人々と話をしているうちに、自分が気違いだと思われているのに気づいた。人々は彼に対して哀れみや敵意しか示さず、その話をまともに聞こうとはしなかった。

男ははじめ、新しい水をまったく飲もうとしなかった。隠れ家に行って、貯蔵していた水を飲んでいたが、しだいにみんなと違ったやり方で暮らしたり、考えたり、行動することに耐えられなくなり、ついにある日、新しい水を飲む決心をした。そして、新しい水を飲むと、この男もほかの人間と同じになり、自分の蓄えていた特別な水のことをすっかり忘れてしまった。そして仲間たちからは、狂気から奇跡的に回復した男と呼ばれたのであった。

 

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from 'Tales of the Dervishes' by Idries Shah

When the Waters Were Changed

Once upon a time Khidr, the teacher of Moses, called upon mankind with a warning. At a certain date, he said, all the water in the world which had not been specially hoarded, would disappear. It would then be renewed, with different water, which would drive men mad.

Only one man listened to the meaning of this advice. He collected water and went to a secure place where he stored it, and waited for the water to change its character.

On the appointed date the streams stopped running, the wells went dry, and the man who had listened, seeing this happening, went to his retreat and drank his preserved water.

When he saw, from his security, the waterfalls again beginning to flow, this man descended among the other sons of men. He found that they were thinking and talking in an entirely different way from before; yet they had no memory of what had happened, nor of having been warned. When he tried to talk to them, he realized that they thought that he was mad, and they showed hostility or compassion, not understanding.

At first, he drank none of the new water, but went back to his concealment, to draw on his supplies, every day. Finally, however, he took the decision to drink the new water because he could not bear the loneliness of living, behaving and thinking in a different way from everyone else. He drank the new water, and became like the rest. Then he forgot all about his own store of special water, and his fellows began to look upon him as a madman who had miraculously been restored to sanity.

http://www.katinkahesselink.net/sufi/stories.html

 

 

 

28
Oct 2011
Posted in Blog, Monologue by arbor inversa at 12:41 am | No Comments »

潮近い村に、女があった。人並みの器量で肌理良く、気立ても良かったので、嫁にと貰われていくが、歳月経ても子が出来ぬので戻される。そんなことを幾たびか繰り返し、ついに身を隠すようにして集落のはずれに住むようになった。交わっても子をなさぬ女のひとり住まいである。女の家に通う男は限りなかった。ところが、ある年の春、女の顔が変わってその腹が誇らしげに立ち始めた。男らは皆青ざめて出入りを止めた。萱高く白々しい月の晩、打ち捨てられた苫屋よりも侘びた家で、女は一人子を産んだらしい。その夜、鰻を獲りに沢に出ていた老婆が、産声を耳にしたと吹聴した。かつて足繁く通っていた男の中でも、ひときわ女を慕っていた若者があり、恐る恐る親子の様子を見に出かけていった。崩れた透垣越しに赤子をあやす女の声が聞こえてくるが、子供は寝ているのか泣き声ひとつしない。そっと踏み入って小間を覗き見ると、なんと女は石を抱いてアヤシテいた。

 石女(うまずめ)が石を産んだと人々は噂した。中には子を持てぬ女の気がふれて寂しく石に情を抱いたのだろうと憐れむ者もあったが、誰もが女の家を避けて通る。時折、その方角からほうほうという微かな音が聞こえるようになった。皆、石が泣くといって慄き、どうにも落ちつかない。そのうちに、あんな不吉なものを集落に置くわけにはいかないと、声高に憤るものがあらわれる。恐れは憎悪となって、見る間に屈強の一団が仕上げられ、山賊のようないでたちで女の家に押し入ると、女が泣き喚くのを捩じ伏せて不吉の石を担ぎ出し、すぐ裏の小山へと向かった。男らは、テッペン近くまで一気に駆け上り、鳶(とんび)が寄り付く険しい岩陰に、石を隠して下山した。女は子を追って山に入り、その姿を探し歩いたようすであったが、やがて行方も知れなくなってしまった。

 それから幾歳月が過ぎ、海に霞の立つ頃であった。男らは舟を出し、女らは田畑で泥を掘り返していた。その傍で小さな弟妹をあやしながら遊んでいた子どもらが、山のテッペンで昼なのに鵺(ぬえ)が鳴きよると騒ぎ出した。母親たちは、そんなものは聞こえぬと取り合わない。子供らは団子になって集まり、テッペンがほうほうと呼びよる、鳳凰かもしれん、聞きなれぬ鳥の声もしよる、などと言い合いながら、連れだって裏山を登って行った。子供らが、その鳴き声をつたって、捨てられた石の子を仰ぐあたりに辿り着いた頃、地がかつてなく大きく揺れた。痩せた黒松、不動の岩など手の届くものに抱き着いてやり過ごし、そろそろと眼下の村を見はらすと、騎馬の大軍も及ばない潮の隊列が迫りくる。母を呼んで泣く幼子らの手をひき、目を瞠って見下ろしていると、麓のすべては泥の海の下、何もない地に還ってしまった。

 平安の昔、美濃国に石を産んだ娘があって、伊奈婆(いなば)の神からその石は我が子也との託宣があったという。この土地の女が生んだのも、そのような不思議なことだったかもしれない。石の子が置かれた場所は祀られ、今に伝えられている。

 

註: 美濃の生娘が石を産み、神としてまつった話が、日本国現報善悪霊異記下巻第三十一に見られる。

16
Feb 2011
Posted in Blog, Monologue by arbor inversa at 09:41 pm | No Comments »

これは、デーン人の国からやってきた友人が伝えた話である。

 

 ある村はずれに、その辺りの農地一帯を牛耳る富裕な一族の館があった。海に面したその地方では、季節を問わず重い空気が大地を覆い、陽の乏しい冬場などは、いつ果てるとも知れぬ闇の中で家の者が身を寄せ合って過ごした。奥方は、春が訪れるまでの日にちと、家族と使用人を合わせた食い扶持の頭数を掛け合わせ、わずかな蓄えの嵩を何度でも測る。それは、長い一日を明日に繋ぐための儀式のようでもあった。気が遠くなるほどの労苦の中では、このような小さな労苦が、時に人を支えるものである。

 

 やがて季節が巡り、風の向きと匂いが変わった。家人は重い板戸を開け放ち、早速、この時期にしなければいけない作業の数々に取り掛かる。主人は、使用人の少女に広間の掃除を命じた。その時代のその地方のことゆえ、家具、家財などはそう多くない。しかし、冬の間に雪の湿気が貯まっているから、諸々きちんと動かして風を通さなければいけない。「だがな、よくよく言っておくが」と主人は眉間に皺を寄せる。「広間のあそこに立っておる、あの杭にはさわってはならん。絶対に動かしてはならんぞ。ゲンガンガーが出てくるからな。」

 

 広間を通り抜ける春の陽気は心地よい。手際よく働く少女は軽快に立ち回り、粗末な服も蝶のように舞う。あどけない唇からは花弁のように、古謡が漏れる。と、そのとき、少女は言われた杭にぶつかって、一寸ほど動かしてしまった。厳しい主人の仕置きを恐れ、慌てて位置を正そうと杭に手をかけたが、その刹那、抗し難い想念が「動かせ」という声になって、身裡を駆け巡った。小さな満身の力を込めて、杭を戻そうとはしたが、逆に何者かに抱きかかえられたかのようだった。杭は外れてしまった。

 

 それが置かれていた床面には、黒々とした穴が開いていた。其処からゆっくりと、聞いたことも無いほど小さな声が、数えられないほどの束になって、湧き水のように沸きあがる。それは徐々に大きくなって、少女が広間から逃げ出す頃には、鐘楼のてっぺんで教会の鐘の音を聞くほどになった。地響きのような只ならぬ轟音に、主人は事の顛末を悟った。泣きじゃくる少女を構う間もなく、慌てて司祭を呼びにやらせた。使いの男は司祭の家に飛んで行ったが、生憎留守をされていた。だが、そのことを告げに、館に戻ろうとすると、遠くからもそのただならぬ気配が察せられて、もはや帰る気になれなかった。

 

 司祭を連れてくるはずの男の帰りが遅いので、主人は他の使いを出した。この者は、隣村まで出掛けて、別の司祭を連れて戻ってきた。隣村の司祭は広間に向かうと、早速、儀式に取り掛かった。しかし、み詞をいくら唱えても、聖水をありたけ浴びせても、黒い穴から溢れ出すすさまじい音が鎮まらない。そのとき、司祭の耳にはっきりとこういう声があった。「お前は、子どもの頃、白いパンを盗んだな。」隣村の司祭は石のように固まって、聖具を落とした。そして、一からげにすべてを片付けると、逃げるように出て行ってしまった。

 

 やがて、村に戻った馴染みの司祭が、館の只ならぬ様子を知って駆けつけてきた。彼には、清めなかった罪が無かったらしい。ほどなく広間から、ゲンガンガーの割れ鐘を打ち鳴らす声に変わって、司祭の唱えるみ詞が聞こえてきた。黒い煙のように思えた声はすっかり静まり、霧が晴れたように思えた。家人がおそるおそる広間を覗くと、司祭が杭を元あった場所に納めていた。

 

 それからは何事もなく、常の日々が過ぎ、また次の春がやってきた。そろそろ板戸を開けはなす頃だ。誰もが口に出そうとしなかった昨年のことを、誰ともなしに思い起こしたその頃、少女は急に床につき、春風のように逝ってしまった。

 

註:この話は、デンマークのEvald Tang Kristensenが、19世紀末から20世紀初頭にかけて、地方を周って採集した民話を基にしている。友人の話では、ゲンガンガー Gengangerとは、怪物でも悪魔でもなく、形のない霊気のようなものだそうだ。亡霊、ghostの類だろうか。また、隣村の司祭が子どもの頃に盗んだという「白いパン」は、その当時、庶民が日常的に食べていた黒いパンの対極にある、特別な食べ物なのだそうだ。その贅沢品に手を出したのは、空腹のためではない。盗んだということではなく、白いパンを食べたいという欲望、そしてそのような欲望を隠していたと知る者の前に、聖人は神通力を失ったのだ。

17
Dec 2010
Posted in Blog, Monologue by arbor inversa at 04:45 pm | No Comments »

遥か以前に、私は街道で生まれた。憶えている限り最初に居た場所に耳を澄ますと、靄のように煙った靴音が聞こえる。土砂混じりの貧しい路面を、鈍い音ばかりが行き交っている。解れた緞帳のような記憶を手繰る。あれは物乞いだったのだろうか、身をゆすりながら歌われる呪詛のような念仏、小さな縫い目のような声を感じる。まだ、牛馬の幾頭かが使われていた。獣毛と唾液の臭気が鼻腔を通っていたはず。だが、思い起こす限り、其処は無臭の国。遠い夢に訪ねたような、果ての国。

 

記憶の淵に潜んでいたものは、決死の覚悟でその根を切って、やがて、徐々に浮かび上がってくるだろう。

 

そのとき、既に星々は眠っていた。熱の無い日輪が上がり、無慈悲に、当然のように、朝露を吸い上げていた。通りでは日々の暮らしが始まり、おびただしい足が交わっていた。ありとあらゆる隙間に身を寄せ合う、名も知れぬ草花の群れの、その中から私は見ていた。目の前で踏み潰される小さな花。彼女が、一杯に抱え込んでいた花粉。そんなにも多くの黄金。薄桃色の花弁が、泥に這い蹲る瞬間に放った香気。その一瞬の嗅覚の覚醒。たまらずに手を差し伸べようとして届かず、声にならない叫びが宇宙(そら)の漆黒に凍り付く。

 

そこでは、私もまた、路傍の花であった。

12
Dec 2010
Posted in Blog, Monologue by arbor inversa at 12:29 am | No Comments »

渇いた鴉>>english

 

 

首を伸ばしても届かない、無慈悲な水面に苛立ちながら、渇いた鴉は知恵と力を振り絞る。小石をくわえて運んでは、甕の中に落としていく。絶望的な闇から、微かな光にゆらめく希望が現れる。健気な鳥は、ひとつひとつ石を積み重ね、やがておのれ自身の作業に我を忘れる。気が付いたときにはもう遅い。表面張力いっぱいの秘密が、彼を飲み込む。

 

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以下は、作者による試訳につき、文法的な間違いなど、コメント欄にご指摘いただけたら幸いです ------菅野まり子

 

 

The Thirsty Raven

 

 

Getting irritated at the surface of pitiless water to which he craned his neck unsuccessfully,  the thirsty raven puts forth all his wisdom and strength. He decided to hold and carry pebbles with his beaks, and drop them into the crock. By and by a small ray of hope rises up from the desperate darkness. That pure bird piles pebbles one by one, and eventually he loses himself in this work. When he comes to, it is too late. The secret filled with surface tension swallows him up.

 

 

translated by myself, let me know or leave your comments if you find some grammatical errors, please. Thank you.
8
Dec 2010
Posted in Blog, Monologue by arbor inversa at 10:51 pm | No Comments »

綴じられた目>>english

 

 

昔或るところに若者が在った。方々で桃を採っては市で売り、ささやかな生活の足しにしていた。或る時、老木に見事な果実を見つけ、いつものようにそれを採ろうと手を伸ばすと、虫が喰ったような跡が見えた。ふと見入ると、虫喰いと思われたその箇所は、あたかも紅玉に穿たれた細工物のように見事な楼閣となっている。怪しんで更に目を凝らすと、その内の門扉と思しきあたりに、まことに小さな蛟(みずち)のような虫があって、その実をくねらせる様は、手招きをするようであった。驚いたその刹那に、彼はもうその楼の中に居た。

楼内の暮らしはおもしろく、仙境に遊ぶとは此の事であった。幾晩か逗留したところで、彼はそろそろ家に帰りたいと願い出たが、それは決して許されぬという。驚き慌てて、何としてでも戻りたい、老いた両親が案ぜられてならぬと、泣き通して懇願した。それでは致し方あるまい、此の楼内で見たことが漏れぬようにと、両目をきつく糸で綴じられ、ついに帰される事となった。

村では既に永い歳月が流れていた。案じた両親も、鄙びた我が家も、その気配すら残っていなかったが、辛うじて彼のことを見知っていた者が、気の毒に思って世話を焼いてくれた。これまでの所在や、縫い塞がれた目のことを問い質しはしたが、彼は黙って何も答えず、誰も見たことがないような微笑を浮かべた。

やがて、その人品と風格の常ならぬ様子が知れ渡り、寒村に導師現るとの評判が立った。地頭や役人、学士や官吏、果ては貴顕紳士や高僧まで来訪し、あれこれと質問していった。終には、時の帝も繰り返し遣いを寄越し、不老長寿の秘薬を授けよと厳命した。彼は、しかし、透けるような声で「身に憶えの無いこと」と答えるだけだった。そのうちに、いずこともなく、彼の塞がれた目に秘策が隠されているという噂が立ちはじめた。

手ぶらでは帰れぬ皇帝の遣いであったのか、仙丹製造の術を獲て千金を得ようと企む者であったのか、あるいは世の真を知り尽くしたいと願う求道の狂徒であったのかは、分からない。ある晩、何者かが、彼の寝首を切って落とし、ついにその目を抉じ開けた。一閃、雷光を束ねたような光明がその両目より放たれ、地が深みより轟いた。そして、世のものみなを悉く、真っ白に焼き尽くしてしまった。

 

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以下は、作者による試訳につき、文法的な間違いなど、コメント欄にご指摘いただけたら幸いです ------菅野まり子

 

 

The Eyes Which Were Sewed

 

 

Once upon a time, there was a young man, who plucked peaches here and there to sell them in the market and to cover his modest living expenses. One day, he found a huge peach in an old peach tree. He reached his hand to pick it up, and then he saw the mark like a moth-eaten hole. He checked and realized that it was not a worm hole but a fine building of palace which was like an exquisite handicraft. He wondered at it and tried to strain his eyes into the palace. He noticed a little worm was wiggling about the door, and it was as if he was beckoned into the palace. As soon as surprised, he was already inside it.

The sojourn in that palace was amusing. It was truly an enchanted land. After staying for some nights, he asked to be back now. However they said that was simply unacceptable. He was frightened out of his wits, cried and entreated, " I have to go home by all means, my old parents won't be able to live without me". "If so, there's no choice for it," they replied, "but we must prevent what you had seen here from leaking". Then his eyes were sewed tightly, and finally he could go home.

Many years had been gone in his village. His parents had already passed away. As to his rustic house, not even a sign existed. However a villager who had barely remembered of him felt pity and looked after him. Although he was asked about where he was and also about why his eyes were sewed, he answered nothing in silence with a smile that no one has ever seen before.

Before long, his unusual appearance and character became widely known, people said a respectable guru appeared in the lonesome village. Land stewards, officers, scholars, civil servants, notables and even high priests visited him and asked him many kind of questions. In the end, the emperor at that time sent messengers repeatedly with his strict orders, wishing for a miraculous medicine of perennial youth and longevity. However he only replied "I know nothing".  Eventually, a rumor that the secret measures were hidden inside his sewed eyes was arising from nowhere.

Was it emperor's messengers who couldn't go back with empty hands? Someone who planned to get the way of producing elixir and to make megabucks? Or an insane student who was longing for full knowledge of the truth? Nobody knows who did it. One night, someone cut off his head while he was sleeping, and break opened his eyes. A flash like a bundle of lightnings was beamed, and the ground thundered from its depth. Then, everything in the world was entirely destroyed to become white.

 

 

translated by myself, let me know or leave your comments if you find some grammatical errors, please. Thank you.
5
Jul 2010
Posted in Blog, Monologue by arbor inversa at 12:00 am | No Comments »

"ここに働かざりし両手あり"
取るに足らない
いのちの枝葉(えだは)
花の下 擦れ違う人々の
流れに漂う 紙の二片(ふたひら)

 

耐え難き星々の輝きよ
責め立てる一つ眼より
さらに眩く 冷たく
この悴(かじか)んだ肉体を
俎上でついばむものらよ

 

ここに燃え上がる両手あり
爛(ただ)れた無為と
鈍色(にぶいろ)の痛み
床(とこ)に根付いた諦念は
皓々と 先を照らし行く

 

渇きではなく充たすため
樹液に群がる
黄金虫(こがねむし)らの
木々の陰 陽(ひ)を集め行(ゆ)く
遠い叡智をふり仰ぐ