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16
Feb 2011
Posted in Blog, Monologue by Mariko at 09:41 pm | No Comments »

これは、デーン人の国からやってきた友人が伝えた話である。


 

 ある村はずれに、その辺りの農地一帯を牛耳る富裕な一族の館があった。海に面したその地方では、季節を問わず重い空気が大地を覆い、陽の乏しい冬場などは、いつ果てるとも知れぬ闇の中で家の者が身を寄せ合って過ごした。奥方は、春が訪れるまでの日にちと、家族と使用人を合わせた食い扶持の頭数を掛け合わせ、わずかな蓄えの嵩を何度でも測る。それは、長い一日を明日に繋ぐための儀式のようでもあった。気が遠くなるほどの労苦の中では、このような小さな労苦が、時に人を支えるものである。


 

 やがて季節が巡り、風の向きと匂いが変わった。家人は重い板戸を開け放ち、早速、この時期にしなければいけない作業の数々に取り掛かる。主人は、使用人の少女に広間の掃除を命じた。その時代のその地方のことゆえ、家具、家財などはそう多くない。しかし、冬の間に雪の湿気が貯まっているから、諸々きちんと動かして風を通さなければいけない。「だがな、よくよく言っておくが」と主人は眉間に皺を寄せる。「広間のあそこに立っておる、あの杭にはさわってはならん。絶対に動かしてはならんぞ。ゲンガンガーが出てくるからな。」


 

 広間を通り抜ける春の陽気は心地よい。手際よく働く少女は軽快に立ち回り、粗末な服も蝶のように舞う。あどけない唇からは花弁のように、古謡が漏れる。と、そのとき、少女は言われた杭にぶつかって、一寸ほど動かしてしまった。厳しい主人の仕置きを恐れ、慌てて位置を正そうと杭に手をかけたが、その刹那、抗し難い想念が「動かせ」という声になって、身裡を駆け巡った。小さな満身の力を込めて、杭を戻そうとはしたが、逆に何者かに抱きかかえられたかのようだった。杭は外れてしまった。


 

 それが置かれていた床面には、黒々とした穴が開いていた。其処からゆっくりと、聞いたことも無いほど小さな声が、数えられないほどの束になって、湧き水のように沸きあがる。それは徐々に大きくなって、少女が広間から逃げ出す頃には、鐘楼のてっぺんで教会の鐘の音を聞くほどになった。地響きのような只ならぬ轟音に、主人は事の顛末を悟った。泣きじゃくる少女を構う間もなく、慌てて司祭を呼びにやらせた。使いの男は司祭の家に飛んで行ったが、生憎留守をされていた。だが、そのことを告げに、館に戻ろうとすると、遠くからもそのただならぬ気配が察せられて、もはや帰る気になれなかった。


 

 司祭を連れてくるはずの男の帰りが遅いので、主人は他の使いを出した。この者は、隣村まで出掛けて、別の司祭を連れて戻ってきた。隣村の司祭は広間に向かうと、早速、儀式に取り掛かった。しかし、み詞をいくら唱えても、聖水をありたけ浴びせても、黒い穴から溢れ出すすさまじい音が鎮まらない。そのとき、司祭の耳にはっきりとこういう声があった。「お前は、子どもの頃、白いパンを盗んだな。」隣村の司祭は石のように固まって、聖具を落とした。そして、一からげにすべてを片付けると、逃げるように出て行ってしまった。


 

 やがて、村に戻った馴染みの司祭が、館の只ならぬ様子を知って駆けつけてきた。彼には、清めなかった罪が無かったらしい。ほどなく広間から、ゲンガンガーの割れ鐘を打ち鳴らす声に変わって、司祭の唱えるみ詞が聞こえてきた。黒い煙のように思えた声はすっかり静まり、霧が晴れたように思えた。家人がおそるおそる広間を覗くと、司祭が杭を元あった場所に納めていた。


 

 それからは何事もなく、常の日々が過ぎ、また次の春がやってきた。そろそろ板戸を開けはなす頃だ。誰もが口に出そうとしなかった昨年のことを、誰ともなしに思い起こしたその頃、少女は急に床につき、春風のように逝ってしまった。

 

註:この話は、デンマークのEvald Tang Kristensenが、19世紀末から20世紀初頭にかけて、地方を周って採集した民話を基にしている。友人の話では、ゲンガンガー Gengangerとは、怪物でも悪魔でもなく、形のない霊気のようなものだそうだ。亡霊、ghostの類だろうか。また、隣村の司祭が子どもの頃に盗んだという「白いパン」は、その当時、庶民が日常的に食べていた黒いパンの対極にある、特別な食べ物なのだそうだ。その贅沢品に手を出したのは、空腹のためではない。盗んだということではなく、白いパンを食べたいという欲望、そしてそのような欲望を隠していたと知る者の前に、聖人は神通力を失ったのだ。

16
Feb 2011
Posted in Blog, Info by Mariko at 06:18 pm | No Comments »

I've made my profile site on SAATCHI ONLINE, which is supplied by Saatchi Galley, London. Everyone can make the account for free, and can see so many art works uploaded from all around the world. Also, I've entered in the "showdown" , as I want to show my "Stellar Wind" (see below)  widely to the international audience. If you're already the member and are interested in my work, please contact to me and vote for me. Thank you*

http://www.saatchionline.com/marikosugano

vote here;

http://www.saatchionline.com/showdown/match/showdown/4/artist/217213/art/111747

 

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ロンドンのサーチ・ギャラリーが提供しているサーチ・オンラインというコミュニティサイトに登録しました。実に多くのアーティストが各々自信作を披露しています。大海に投じた一滴のようなものだと思いますが、私も簡単なプロフィールとポートフォリオを掲載してみました。

http://www.saatchionline.com/marikosugano

登録は無料で、アーティストに限らず、もちろん誰でも参加できます。また、時々、showdownというコンテストも行っていて、作品を掲載している誰でも、毎回1作をエントリーできます。今回は5,716人の応募があったようです。このうち、2月23日12:00の時点で上位128の作品が本選に進むことができるそうです。投票できるの は、サーチ・オンラインに登録しているメンバーで、審査委員が決めるのではありません。登録メンバーは圧倒的にアーティストが多いので、アーティストが自作は勿論のこと、それ以外に 良しと思った作品に投票し、おのずと人気のある作品が選ばれるといった趣です。勿論、投票できるのは1作につき一回だけです。ちょうどエントリーの締切りに間に合ったので、私も『恒星風 Stellar Wind』で応募してみました。現在、上位200番~300番あたりで健闘しております。メンバー登録されている方、これを機にされる方、拙作を良しと思われましたら、是非、投票ページでご検討くださいませ。

http://www.saatchionline.com/showdown/match/showdown/4/artist/217213/art/111747

showdownで世界中の作家からの拙作への反応を見るのも楽しいですが、こちらも色々な作品が見られ、また思わぬ交流もあって、なかなか興味深いです。国際的な コミュニティサイトという点ではfacebookの方が大きく広がりもありますが、アートに特化しているため、レイアウトもシンプルで、作品の閲覧などがしやすいように思います。 ただ、昨今、急激に登録者が増えたため、サーバーの処理も追いつかない様子、そろそろ体勢を立て直すというアナウンスがありました。その際は、一時的に閉 鎖してしまうかもしれませんね。

 

5
Jan 2011
Posted in Blog, Memorabilia by Mariko at 03:11 am | No Comments »

Best Wishes for 2011

    The stormy wind of fortune has blown. Must purify hands and go ahead.

 

                                                                          Mariko Sugano

   ---- Exhibition page was updated, hope your glance into my recent works of 2010.

 

 

 

新年あけましておめでとうございます

    星のめぐりの風立ちぬいざ向き行かん諸手清めて

 

                                                         菅野 まり子

  ----  Exhibitionページが更新されました。2010年の拙作を見にお立ち寄りください。

 

 

 

 

18
Dec 2010
Posted in Blog, Info by Mariko at 02:38 am | No Comments »

Invitation to the coming group show "MESSAGE 2010" that will be held in Gallery Kobayashi from next Monday. I've finished new works for this show. It is a series of small 3 works. Please check this.

来週月曜より、コバヤシ画廊でのグループ展「メッセージ2010」に、新作小品を出品いたします。今回は、SMサイズ(A5くらい)で、連作3点を仕上げました。詳細は、こちらをご覧ください。また、初日月曜17:30よりオープニングパーティーがありますので、よろしければお立ち寄りください。

17
Dec 2010
Posted in Blog, Monologue by Mariko at 04:45 pm | No Comments »

遥か以前に、私は街道で生まれた。憶えている限り最初に居た場所に耳を澄ますと、靄のように煙った靴音が聞こえる。土砂混じりの貧しい路面を、鈍い音ばかりが行き交っている。解れた緞帳のような記憶を手繰る。あれは物乞いだったのだろうか、身をゆすりながら歌われる呪詛のような念仏、小さな縫い目のような声を感じる。まだ、牛馬の幾頭かが使われていた。獣毛と唾液の臭気が鼻腔を通っていたはず。だが、思い起こす限り、其処は無臭の国。遠い夢に訪ねたような、果ての国。

 

記憶の淵に潜んでいたものは、決死の覚悟でその根を切って、やがて、徐々に浮かび上がってくるだろう。

 

そのとき、既に星々は眠っていた。熱の無い日輪が上がり、無慈悲に、当然のように、朝露を吸い上げていた。通りでは日々の暮らしが始まり、おびただしい足が交わっていた。ありとあらゆる隙間に身を寄せ合う、名も知れぬ草花の群れの、その中から私は見ていた。目の前で踏み潰される小さな花。彼女が、一杯に抱え込んでいた花粉。そんなにも多くの黄金。薄桃色の花弁が、泥に這い蹲る瞬間に放った香気。その一瞬の嗅覚の覚醒。たまらずに手を差し伸べようとして届かず、声にならない叫びが宇宙(そら)の漆黒に凍り付く。

 

そこでは、私もまた、路傍の花であった。